火曜日

 何度乗り過ごせば気が済むのだろう。気がつけば蒲田。深夜1時。千鳥足で街に出る。声をかけてくるマッサージのお姉さんもあきれ顔だ。以前に泊まったことのあるカプセルホテルは満室。仕方なく、マンガ喫茶のフラットルームに潜り込む。スマートフォンで会員登録。受付前でモタモタ指を動かす僕を、隣としゃべりながら、横目でスキャンする店員さん。

 寝る前なのについ紙コップのブラックコーヒーを飲み干して、当然のごとく目がさえてしまい、「スパイ・ファミリー」を1巻から読み始める。「我慢だ黄昏」。我慢は大事だ。僕はといえば、堪え性のない人生だった。調子に乗って余計なことばかりして、いつも後で泣きをみている。2巻の途中で眠りについたらしい。

 4時半頃に目が覚める。滞在時間2時間56分。3時間パックに収まる。今回はサイフもケータイもカバンも無事なようだ。なんだ楽勝じゃないか。扉の手すりにもたれかかり、死線をくぐり抜けた解放感を覚える。「神聖喜劇」の東堂太郎のように、気持ちは堂々としているが、こちらは抜け切らないアルコールで、ちょっとした躁状態。きっと手は小刻みにふるえている。

 部屋に戻って、布団を敷いてひと眠りして、昼過ぎに目が覚めると、いつもの離脱がやってくるだろう。せっかくの土曜日なのに、また台無しだ。それでも昨晩、飲んでいるうちは幸せだったはずだ。少なくとも途中までは。お店に粗相してなければいいけれど。ちょっと、次は間隔を空けて、様子をうかがいに行こう。ブログの日記もずいぶん更新していない。火曜日くらいにはちゃんとしたい。