行きつけの店にサヨナラ

長年の行きつけのお店に行かなくなってしばらくたつ。
今年の初めまでは週3回は通っていたのに、今ではお店の近くを通るのも気まずくなった。
まるで恋からさめたように、お店への思いはすっかり冷えきってしまった。

きっかけは僕自身の粗相だ。悪気はなかった。
お店のママさんはウーロンハイのグラス片手に僕の失態をなじった。
商売あがったり、のようなことも言われた。
その日の僕は特に気が弱っていたのかもしれない。ずいぶん堪えた。

20代から通い始め、最年少の常連として、ママさんからはずいぶんかわいがってもらえた。
30半ばで仕事をやめて悩んでいたときも、支えになってくれた。
いろいろな贈り物も頂いた。楽しい思い出を挙げればキリがない。

でもそのうち、お店がお客を選ぶようになっていった。
気に入らないお客にはあからさまに不機嫌な態度をとるようになった。
それは昔から通っている大常連、人生の大先輩に対しても。
その中には僕がずいぶんお世話になった人も含まれていた。

お店の空気はだんだん悪くなっていった。
それでもお気に入りのお客だけの日は平和だったし、
歓迎されないお客が来たとしても、僕が応対して場をもたせる自信はあった。

いつもお店の売り上げに貢献する飲み方をしていたつもりだった。
近所で気軽に飲めて、常連さん達と楽しく会話できる、貴重なお店だったから。
それなのに、あの日ママさんから言われたことで、全てがひっくり返ってしまった。
僕の受け止め方しだいと言われればそれまでだが、実際に僕の心は折れてしまった。

結局お店にとって、僕も、他のお客も、お店を維持する売上でしかなかったのだろうか。
よその大半のお店と同じように……。
そう思ったが最後、魔法を解かれたシンデレラの馬車は、ただのカボチャになってもう元に戻らなかった。